karotousen58のブログ

「変なことを思い出す→そのことについて、変な見解を述べる」というブログ

あなたの(おそらく)知らない『花咲か爺』

今週のお題ゴールデンウィーク2016」

 

去年のゴールデンウィークは、日本昔話『ふるやのもり』にのめりこんでしまった。そのことについては 今週のお題「ゴールデンウィーク2015」 - karotousen58のブログ で書いた。

 

『日本昔話通観第17巻 鳥取』によると、鳥取県に伝承されている「花咲か爺」は、その類話が多様な変化を持っているということだ。

今週のお題「ゴールデンウィーク2015」 - karotousen58のブログ

 と、去年のこの記事で書いた。

そして最近、はてなハイクで『花咲か爺』について書かれた投稿を読んだ。投稿を読んで去年の記事を思い出し、「今年のゴールデンウィークは、『花咲か爺』を調べてみよう」と思った。

 

最初に「花咲か爺 鳥取」で検索したら、  花さか爺 が見つかった。

これを読んで、「何これ? 私の知っている『花咲か爺』ではない。」と思った。

私の知っている『花咲か爺』は

・「犬がどこから来たか」について、書かれていなかった。

・裏の畑で犬が、「ここ掘れわんわん」と指示(「赤、カーカッカッカー」などといった、意味不明の科白ではない)。

・木について、詳しく書かれていなかった。

・臼を使って餅をつくと、宝物が出てきた。

私の知っていた『花咲か爺』は、花咲じいさん <福娘童話集 きょうの日本昔話> のような話だった。

更に調べると、 ir.c.chuo-u.ac.jp/repository/search/binary/p/5308/s/3128/ が見つかった。

これを読んでさらに吃驚。

 「このオープニングは『桃太郎』じゃないか? これも私の知っている『花咲か爺』ではない。」と思った。

この論文を読んだところ、各地に伝わる『花咲か爺』は

・犬はどこから来たのか?

・犬が飼い主に、最初に富をもたらす方法は何か?

・犬を埋めた後の、富の入手方法

・犬を埋めた場所にある植物から富を得たところで完結、次の灰撒きの結末を持たない話もある

といったところに、多様な変化があるらしい。

 

その後、『日本昔話通観第17巻 鳥取』を見て鳥取県バージョン『花咲か爺』を調べた。

この本では、「花咲か爺タイプの話」と「灰撒きの結末を持たない話」とをまとめて、「犬むかし」としてあった。

「犬むかし」は5つのサブタイプに分けてまとめてあった。

1.花咲か爺型 2.鳥とり爺型 3.金の木型 4.天の金倉型 5.梨の舞い型 の5つだ。

サブタイプ5つというところからも、バリエーションが豊富であることがわかる。また、「花咲か爺型」だけでも、8種の話が出ている。(始めに紹介した「赤、カーカッカッカー」の話は、この本には出ていなかった。)灰を撒くところからは、「私の知っていた『花咲か爺』」とあまり違いはない。

2.鳥とり爺型は、「灰を撒いたら、鳥が落ちてくる」という話になっている。

こんなに種類が豊富だとは、思ってもいなかった。

 

1.花咲か爺型

(原題 花咲じい)  鳥取県中部

構成

・爺の犬は山で、爺が「しいきしき」と言うと右の方から雉をくわえてき、「左の方にしいきしき」と言うと左の山から雉をくわえてくる。隣の悪い爺が無理にその犬を借り、山で同じ言葉を言うが、そのたびに右と左のすねに食いつく。そして、隣の爺は犬を殺してしまう。

・爺は犬を持ち帰って埋め、そこに梨の木を植え、「芽を出せ、花が咲け、実がなれ」と言うとその通りになる。「下がれよ」と言うと金が落ちてくる。隣の爺がその木のところへ行って「下がれよ」と言うと、汚物が落ちてくる。隣の爺は木を切って、かまどにくべる。爺はその木の灰をもらって帰る。(以下略)

類話1 鳥取県中部

・犬が爺を畑に連れて行って鳴くのでそこを掘ると、小判が出てくる。隣の爺が犬を借り、無理やり鳴かせてそこを掘ると汚物が出てくる。隣の爺は犬を殺す。

・爺は犬のなきがらを持ち帰って墓をたてて木を植えると、木はぐんぐん大木になる。爺はその木で臼をつかって餅をつく。つくときに声をかけると、そのたびに小判が出てくる。隣の爺が臼を借りて帰って、米をつくが、餅は顔にくっついてしまう。隣の爺は臼をこわして焼く。爺はその木の灰を持って帰る。(以下略)

類話2 鳥取県中部 

・爺が山で、「西の谷へけえしけし」と言うと、犬が西の谷で兎をくわえてくる。つぎには東の谷で雉、つぎには中の谷で兎、といったふうなので、隣の爺が犬を借りた。しかし、犬は隣の爺に食いつく。隣の爺は犬を殺す。

・爺が犬のなきがらを埋めて、そこにはえた木で臼を作って餅をつくと小判が出る。隣の爺が臼を借りて餅をつくが、変なものばかり出るので怒って臼を焼く。爺がその灰をもらって帰る。(以下略)

類話3 鳥取県中部

・爺と婆が三毛の男猫を飼っている。いつもお金をくわえて戻ってくるので隣の爺が借りる。しかし、爺の注意を守らず、くわえてきたお金で買った魚をたくさん食わせたので死んでしまう。

・爺がそのなきがらを屋敷に埋めると、そこから木が生えたので大きくしてそれで臼を作る。その臼で米をつくと、一升つけば二升に、と増える。隣の爺が借りて米をつくが、一升つけば五合に減る。隣の爺は臼を風呂の焚き物にする。爺がその灰をもらって帰る。(以下略)

類話4 鳥取県西部

・爺は犬好きで、犬を連れては猟に行っている。隣の爺が犬を借りて猟に行くが、「右(左)の谷へ行け」と命じても言うことをきかずに隣の爺の膝を噛んだので、怒って叩き殺して埋める。

・犬好きの爺が犬の埋められた所に行ってみると、木が生えている。その木で臼を作って使うとたくさんの餅ができるが、隣の爺が借りて使うとうまくいかないので、叩き割って焼く。よい爺がその灰を持ち帰る。(以下略)

類話5 鳥取県西部

・爺と婆が黒と赤という犬をかわいがっている。黒に、「米俵をくわえてこい。ハアキハアキ」と言うと、米俵をくわえてくる。赤に、「銭をいっぱい持ってこい」と言うと、銭を持ってくる。「黒や、赤や、ハアキハアキ」と言うと大きな雉をくわえてくるので、爺と婆は分限者になる。隣の爺が黒と赤を借りて「右の谷へ ハアキハアキ」と言うと右の脚をかまれる。左や中と言った場合も噛まれる。そして、隣の爺は犬を殺して埋める。

・爺が犬のなきがらを埋めてそこに生えたけやきの木で臼を作る。銭一文を入れてつくと銭が臼いっぱいになり、米を入れてつくと米がいっぱいになって分限者になる。隣の爺が臼を借りて銭を一文入れてつくと、汚物が出る。隣の爺は臼を焼く。爺が灰をもらって帰る。(以下略)

類話6 鳥取県東部

・爺が飼い猫に虫干しを食わせると小判を一つずつひる。隣人がうらやましがって、借りて帰るが、いくら虫干しを食わせても小判をひらないので叩いていると死んでしまう。

・爺がなきがらを埋めると、そこから木が生え、小判がなる。隣人がその木を借りるが小判はならないので、怒って切り、焼いてしまう。爺が灰を取る。(以下略)

類話7 鳥取県東部

・性のいい爺と性の悪い爺とが隣合わせに住んでいた。性のいい爺の飼い犬が、「ここを掘れ」と言うので掘ると小判が出て金持ちになる。悪い爺が犬を借りて山で掘ると汚物が出てきたので、叩き殺して松の木の根に埋める。

・いい爺がそれを知り、怒ってその松を切って臼を作り餅をつくと、一升つくと五升の餅ができる。悪い爺が臼を借りてつくと、一升つくと一合の穢い餅ができるので、臼を割って釜にくべる。いい爺はその灰を持ち帰る。(以下略)

 

「花咲か爺型」だけでも、いろいろと変化しまくりである。他の型についても紹介したいのだが、書くと長くなってしまうので詳細は省略。

・犬について

犬がどこから来たか? 他の型に収録された話には、リンク元の話や「花咲か爺型」と違うタイプの記述もある。

リンク元の話や「花咲か爺型」では、犬の名前は「シロ」や「黒」や「赤」。他の型収録の話には、「コロ」という名前もあった。「ポチ」という名前は出てこなかった。

犬ではなくて猫となっている話があったことにも吃驚。しかも、「三毛の男猫」ときたもんだ。三毛猫の三色の毛色は、原則として雌にしか見られない筈だぞ。「三毛」や「猫」の意味が、当時と今とは違うんだろうか?

・犬が飼い主に、最初に富をもたらす方法は何か?

私の知っていた『花咲か爺』は、「発掘型」だった。しかし、鳥取で語られた話は、それ以外の型が多い。隣の爺婆にもたらしたものも、バリエーションが豊富だ。吃驚。鳥取県東部では「狩猟型」以外の話になっているのも、面白い。

・犬を埋めた後の、富の入手方法

木を臼に加工して富を得る他に、木の実りとして富を得る場合もある。私は前者しか知らなかった。木の種類も、結構豊富だ。栗、松、梨、けやき。他の型では、よのみ、柿、竹も見られる。

木の実りとして富を得る方法も、混乱するほどにいろいろと出てくる。他の型になると、更に違った方法も出てくる。臼に加工して富を得る方法もさまざま。他の4つのサブタイプでは、臼への加工はない。また、隣の爺婆にもたらされるものもさまざま。

 

鳥取県で語られた『花咲か爺』だけでも、たくさんあるもんだな。これまで、童謡『はなさかじいさん』の歌詞のイメージしか持ってなかったから吃驚。他の地域バージョンも読んでみたい。灰撒きの結末を持たない話も含めて。