今週のお題「人生に影響を与えた1冊」 その2
今週のお題「人生に影響を与えた1冊」
この本はおそらく、人によって好き嫌いがはっきりと分かれる。私の身近にいる人に関して言えば、ほとんどの人が「この本とは相性が悪い」と感じるだろう。「この本、理屈っぽい」といった類のコメントが返ってくると思う。
この本のまえがきである「洗濯を始める前に」のP.2には、次のような記述がある。
衣類を構成する繊維、衣類に付着した汚れの状況、衣類に最も適した取扱い法、洗濯機の特徴や欠点、使用に適した洗剤、これらを総合的、化学的に判断するのが“洗濯”なのである。
汚れのメカニズム(例 種類など)、取扱い表示、いろいろな洗い方(例 漬け置き洗いなど)、種類によって機能の違う洗濯機、洗剤の使い方(使い分け、量など)、アイテム別洗濯法、干し方、クリーニング活用法、アイロンのかけ方、収納と整理、など、いろいろな観点から科学的な説明がなされている本である。
私は高校を卒業して、実家から遠く離れた大学に進学した。当然、洗濯も自分でしなければならない。
この、洗濯について私は最初に戸惑った。どのくらいの頻度で洗濯すればいいのか、やりすぎると衣類を傷めないか、洗濯機を使うにしても、どのくらいの時間をかけて洗うのがいいのか、汚れや繊維の種類によって、どのように洗剤を使い分けるのか、など、いろいろな面で戸惑った。
母に訊くと、「そんなもの適当でいいでしょ。汚れが落ちなかったらクリーニング屋にだせばいいだけよ。あんたは洗濯すらできないの?」で片づけられた。
他の学生に訊いても、「そんなことまでいちいち考えない。」という答えが返ってくるだけだった。
本屋に行っても、「実際の洗い方」以外のことについてふれてある本は、見つからなかった。
「血液による汚れ以外に、温水を使った洗濯がよくないものは他にあるのだろうか?」
「洗濯による伸び縮みって、防げるものなのだろうか?」
といったことって、他の人はいちいち考えないものなのだろうか?
この本は、そういったことについて、科学的背景までいちいちふまえて書かれている。私にとっては、「おお、そうなのか」と感心して読める楽しい本だ。
大学に入るまで私は、自分の「いちいち理屈を知りたがる」性分を、ずっと「矯正すべき悪癖」と思っていた。実際、特に年長者から咎められていた。
大学入学後、この性分を咎めない人もいるとわかった。また、「理屈から入っていくという方法もアリだ。」と認めてくれた人も何人かいた。こういう経験と同時に、「このようなタイプの本を他のジャンルでも見つける」という幸運にも恵まれた。ただ、この本が出版されたのは私が大学をでてから15年以上後のことだが。
この本は私にとって、「理屈を知りたがる性分も、必ずしも悪癖とは言い切れない」という見方を示してくれた本の一つである。
もう一点。前にも書いたことがあるが、高校卒業まで私は、実技教科の成績は全部ビリだった。そして、それらの教科にロクな思い出はなかった。「実技教科と私とは相性が悪すぎる。努力しても無駄。一生嫌いなままに決まっている。」とずっと思っていた。家事なんて、家庭科もビリの私には好きにも上手にもなれないだろうと、ずっと思っていた。
しかし、私は理数系は好きである。そして、このようなタイプの本を知ってから思った。
「一生嫌いに決まっていると決めつけるのも、もったいないかもな。嫌いとか苦手とか思っていることでも、自分の好きな事柄と意外な接点を持っているものかもしれない。嫌いとか苦手とか思っていることでも、近づき方を変えることができたら、状況が変わることもあるかもしれないな。」と。
この本は、こういう見方を示してくれた本の一つでもある。
なお、掃除についても同様の本が出ている。